- 監修
- 北岡 裕章 先生
(高知大学医学部老年病・循環器内科学 教授)
心アミロイドーシスの診断 心エコー法
心エコーは心アミロイドーシス患者において、心臓の形態、機能を非侵襲的に繰り返し評価可能です。
Mモード心エコー法
拡張末期左室径、収縮時の左室壁振幅の減少、収縮末期径の増加、心囊液貯留が特徴的です1。また、高血圧や弁膜症がない対称性左室肥大、心室中隔、左室後壁の低収縮および収縮期左室壁肥厚の減少、正常ないしは狭小化した左室腔、中隔/後壁比が<1.3、左房径の拡大、僧帽弁E-Fスロープの減少、保たれた左室駆出率(>60%)が典型的所見です2。
断層心エコー法
Mモード所見に加えて、乳頭筋の肥厚、弁の肥厚、右室壁肥厚化、心房中隔肥厚、肥厚心筋の“granular sparkling”などが検出可能です3。granular sparklingは、心筋に不均一に顆粒状の高輝度エコーを認める所見で、心アミロイドーシスに特徴的と考えられていましたが、感度は30%と低く4、また心エコー検査にハーモニックイメージングが標準装備されるようになってから、心アミロイドーシス以外でもgranular sparkling様に見えてしまうことがあり、その有用性は従来より低いと考えられています。
ドプラ心エコー法
ドプラ法による左室拡張指標は心アミロイドーシスの予後予測因子であり、僧帽弁血流の早期拡張波減衰時間<150ms(拘束性障害)は心予後不良を示唆します5。
組織ドプラ心エコー法
心アミロイドーシスは最初に早期左室弛緩が障害され、心不全はとくに左室長軸方向の収縮期壁運動速度の低下と関連しています6。さらに、側壁、中隔の僧帽弁輪ピーク速度と左室後壁のMモード組織カラードプラ(平均弁輪速度心筋速度勾配)は、心アミロイドーシスをコントロール群から鑑別することができます7。
ストレインエコー法
ストレイン、ストレインレート組織ドプラエコー法は、組織ドプライメージでは検出できないALアミロイドーシスの左室長軸方向の早期の収縮異常を検知することが可能です8,9。この鋭敏な方法は、通常のエコーでは区別できないATTRvアミロイドーシスとALアミロイドーシスの心機能の違いを検出できます10。
スペックルトラッキングエコー
スペックルトラッキングエコーによる心筋ストレイン、ストレインレートは心アミロイドーシスを他の原因による心肥大から区別することが可能で、心アミロイドーシスでは長軸方向、円周方向、壁厚方向のストレインすべてが低下を示します11。
左室長軸方向ストレインのBullʼs Eye表示では視覚的にapical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)を可視化できます。
左室壁厚、年齢、性別を一致させたATTRwtアミロイドーシスとATTRvアミロイドーシスの比較では、左室駆出率、左室基部円周方向/壁厚方向ストレイン、左室中部壁厚方向ストレインは、ATTRvアミロイドーシスと比しATTRwtアミロイドーシスで有意に低値であり、ROC解析では、左室駆出率、左室基部平均壁厚方向ストレインが2群を区別するパラメーターとしてもっともよい指標であったことが示されています12。
心エコー法の推奨とエビデンスレベルは、以下の通りです。
心アミロイドーシスにおける心エコー検査の推奨とエビデンスレベル
推奨 クラス |
エビデンス レベル |
Minds 推奨 グレード |
Minds エビデンス 分類 |
||
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左室肥大、左房拡大、心囊液貯留、左室駆出率、右室前壁の肥厚の評価のためのMモード心エコー法 | I | B | B | IVb | |
左室肥大、左房拡大、心囊液貯留、左室駆出率、乳頭筋肥厚、右室心筋肥厚、心筋エコー輝度上昇、voltage/mass ratio の評価のための断層心エコー法 | I | B | B | IVb | |
心内血栓の検出のための経食道心エコー法 | I | B | B | IVa | |
僧帽弁血流、肺静脈血流、左室流出路血流評価および予後予測のためのドプラ心エコー法 | I | B | B | IVa | |
左室機能評価のための組織ドプラ心エコー法 | I | B | B | IVa | |
早期心機能障害の検出、予後予測のためのストレインドプラ心エコー法 | I | B | B | IVa | |
肥大心における心アミロイドーシスの鑑別や予後予測のためのスペックルトラッキング心エコー法 | I | B | B | IVa |
引用文献
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