監修
山下 太郎 先生

(熊本大学病院 脳神経内科 特任教授)

遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)において鑑別/確認が必要な病態や疾患

集積地に多い若年発症V30M型の遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)は、家族歴が明らかなことが多く、高度な自律神経症状や解離性感覚障害にて発症することから、診断は比較的容易な場合が多いとされています。一方、非集積地に多い高齢発症のV30M型においては、家族歴が明らかでなく、特徴的な解離性感覚障害を呈さない場合が多く、心不全を主徴とする例があることが知られています。また、非V30M型の変異においては、心臓型、眼・髄膜型など、多様な表現型を呈することがあるため、診断が遅れたり、誤診されたりしている場合があります。

患者が適切な治療を受けるためには、本疾患を早い段階で疑い、ニューロパチーを伴う他疾患を鑑別し、また、予後に影響する心アミロイドーシスの有無を確認することが重要になります。

鑑別すべき主な病態・疾患
  • 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
  • 糖尿病性ニューロパチー
  • 薬剤性ニューロパチー(化学療法剤など)
  • シャルコー・マリー・トゥース病
  • ギラン・バレー症候群
  • ビタミン欠乏症(ビタミンB1など)
  • 尿毒症

など

確認すべき主な病態・疾患
  • 心アミロイドーシス
  • 手根管症候群

など

鑑別すべき主な病態・疾患

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)は、2ヵ月以上をかけて緩徐に進行する四肢筋力低下と感覚障害を主徴とする免疫介在性の末梢神経の疾患です。遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)では、髄液の蛋白細胞解離を伴うことなどから誤診されるケースが少なくありません1,2。しかし、CIDPの病態は電気生理・病理学的に炎症性脱髄を特徴とするニューロパチーであることから、軸索障害型のニューロパチーを呈する遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)とは異なります。したがって、CIDPとの鑑別には神経伝導検査が有用とされています。

また、CIDPではまれとされている心アミロイドーシスによる心拡大、不整脈、心不全、自律神経障害の合併やコンゴーレッド染色によるアミロイド沈着、変異型TTRタンパク質の検出も鑑別に有用です。 遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)は、非集積地の高齢発症例では家族歴が明らかでない場合も多く、高齢者のニューロパチーではCIDPとの鑑別が重要となります。

慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)との主な鑑別ポイント3

  慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP) 遺伝性ATTR
アミロイドーシス
(FAP)
典型的CIDP 非典型的CIDP
DADS※1 MADSAM※2
発症様式 発症様式緩徐・階段性/再発性 発症様式緩徐進行性 発症様式緩徐進行性/再発性 発症様式緩徐進行性
分布 分布対称性・びまん性 分布対称性・遠位優位 分布非対称性・上肢優位 分布対称性・遠位優位
脱髄/軸索 脱髄/軸索脱髄 脱髄/軸索脱髄 脱髄/軸索脱髄 脱髄/軸索軸索
運動/感覚優位 運動/感覚優位運動 運動/感覚優位感覚 運動/感覚優位運動 運動/感覚優位感覚
臨床所見の特徴 臨床所見の特徴
  • 2ヵ月以上進行
  • 四肢筋力低下
  • 脳神経症状はまれ
  • 腱反射は低下/消失
臨床所見の特徴
  • 四肢遠位の障害が顕著なCIDPの亜型
  • 深部感覚優位
  • 感覚性運動失調
臨床所見の特徴
  • 左右差や上下肢差が顕著
  • 腱反射は障害部位のみ低下
臨床所見の特徴
  • 下肢の感覚障害が初発症状
  • 自律神経障害
  • 心臓症候(心拡大、血漿BNP濃度の上昇など)
慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)
典型的CIDP
発症様式緩徐・階段性/再発性
分布対称性・びまん性
脱髄/軸索脱髄
運動/感覚優位運動
臨床所見の特徴
  • 2ヵ月以上進行
  • 四肢筋力低下
  • 脳神経症状はまれ
  • 腱反射は低下/消失
非典型的CIDP:DADS※1
発症様式緩徐進行性
分布対称性・遠位優位
脱髄/軸索脱髄
運動/感覚優位感覚
臨床所見の特徴
  • 四肢遠位の障害が顕著なCIDPの亜型
  • 深部感覚優位
  • 感覚性運動失調
非典型的CIDP:MADSAM※2
発症様式緩徐進行性/再発性
分布非対称性・上肢優位
脱髄/軸索脱髄
運動/感覚優位運動
臨床所見の特徴
  • 左右差や上下肢差が顕著
  • 腱反射は障害部位のみ低下
遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)
発症様式緩徐進行性
分布対称性・遠位優位
脱髄/軸索軸索
運動/感覚優位感覚
臨床所見の特徴
  • 下肢の感覚障害が初発症状
  • 自律神経障害
  • 心臓症候(心拡大、血漿BNP濃度の上昇など)
※1 遠位優位型(distal acquired demyelinating symmetric) ※2 多巣性脱髄性感覚運動型(multifocal acquired demyelinating sensory and motor)

糖尿病性ニューロパチー(DPN)

糖尿病性ニューロパチーは、糖尿病患者における代表的な合併症の1つであり、様々な病型が知られています。その中で最も頻度が高いのは、糖尿病性ポリニューロパチー(diabetic polyneuropathy:DPN)です。

DPNは、遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)と同様に、対称性・遠位優位の軸索障害型のポリニューロパチーを呈します。ポリニューロパチーには、感覚・運動神経障害と自律神経障害が含まれ、感覚・運動神経障害では、発症早期に下肢末端に、しびれ感・錯覚感・感覚鈍麻などの感覚異常や筋力低下、筋萎縮があらわれ、症状が上行するとともに、上肢末端にも症状が出現します4。また、自律神経障害では、起立性低血圧や消化器症状(下痢、便秘)、勃起障害、瞳孔機能異常など様々な病態を呈します4

DPNの診断には、特異的な症状が存在しないことから、神経症状と検査結果に基づく総合的な判断が必要であり、「糖尿病性神経障害を考える会」から診断基準が提唱されています。診断には、血糖やHbA1cなどで糖尿病の有無を確認するとともに、ニューロパチーを呈する糖尿病以外の原因(アミロイドニューロパチー、甲状腺機能低下症などの代謝性ニューロパチー、ビタミン欠乏性ニューロパチー、薬剤性ニューロパチーなど)を除外する必要があります。

糖尿病性ポリニューロパチー(DPN)の簡易診断基準(抜粋)5

必須項目(以下の2項目を満たす)
  1. 糖尿病が存在する
  2. 糖尿病性ポリニューロパチー以外の末梢神経障害を否定しうる
条件項目(以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合を“神経障害あり”とする)
  1. 糖尿病性ポリニューロパチーに基づくと思われる自覚症状
  2. 両側アキレス腱反射の低下あるいは消失
  3. 両側内踝の振動覚低下

糖尿病性ニューロパチーの最も重要なリスク因子は血糖コントロールの不良であることから、厳格な血糖コントロールを行えば、その発症・進展を抑制することができるとされています4

ただし、糖尿病性ニューロパチーには、急性に発症する外眼筋麻痺や糖尿病性筋萎縮症(diabetic amyotrophy)などの特殊な病型(局所性の単ニューロパチー、体幹ニューロパチー)も知られており4、これらの神経症状と糖尿病との関連性を知っておく必要があります。

確認すべき主な病態・疾患

心アミロイドーシス

心アミロイドーシスとは、全身性のアミロイドーシスにおいて心筋細胞間質にアミロイドが沈着し、形態的、機能的異常をきたす病態をさします。主要病態として、アミロイドの沈着による心室壁の肥厚に伴った拡張不全が主体ですが、さらに病期が進行すると、収縮不全と進行性かつ難治性の心不全を呈するようになります。また、刺激伝導系が障害されると、種々の不整脈や房室ブロックが認められます。

心アミロイドーシスによる形態的、機能的異常

心アミロイドーシスは、心エコー検査などで偶発的に発見されることがあります。心不全[収縮能の保たれた心不全:HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)]や原因不明の心機能低下を示す患者をはじめ、高血圧性心疾患や弁膜症の患者などにも合併していることがあり、鑑別を進めると本病態が発見されることが少なくありません。心アミロイドーシスの検出には、心エコー検査による心室壁の肥厚の確認をはじめ、心臓MRIや99mTc-ピロリン酸心筋シンチグラフィ6などが有用とされています。
心アミロイドーシスは、主にALアミロイドーシスおよびATTRアミロイドーシス[遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)または野生型ATTRアミロイドーシス]でよく認められる病態です。ALアミロイドーシスは、免疫グロブリン由来のアミロイドが全身諸臓器に沈着するもので、骨髄腫やマクログロブリン血症に伴う場合や、これらの基礎疾患が認められない場合があります7
予後や治療法はそれぞれの病型により異なることから、しっかり鑑別することが大切です。ALアミロイドーシスを疑わせる所見としては、アミロイド前駆タンパク質となる免疫グロブリンの検出(血中Mタンパク、尿中Bence Jonesタンパク、血清遊離軽鎖の偏り)が重要となります8。そして、確定診断のためには、免疫グロブリンL鎖(λ型、κ型)に対する抗体を用いた免疫組織化学検査が必要になります8。一方、免疫組織化学検査で抗TTR抗体陽性だった場合は、ATTRアミロイドーシスとなります8TTRの遺伝学的検査で、TTR遺伝子変異が確認されれば、遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)の診断が確定します。TTR遺伝子変異がなければ、野生型ATTRアミロイドーシスの診断となります。

※ 本疾患の遺伝学的検査は保険収載されており、検査受託機関でも実施可能です。

手根管症候群

手根管症候群は、手根管部で正中神経が何らかの理由で圧迫されることによって、正中神経に支配されている示指や中指を中心に、しびれや痛みなどの感覚異常や筋の脱力・筋萎縮を生じる症候群です。これらの症状は、環指や母指に及ぶこともあります。病態が進行すると、母指の付け根(母指球)がやせたり、母指の対立運動(母指と他の指を向かい合わせにする動作)が障害されて母指と示指できれいな丸(OKサイン)ができにくくなったりします。

手根管症候群にみられる母指の対立運動障害

正中神経を圧迫する原因の1つとして、手根管部へのアミロイド沈着が知られており、手根管症候群を発症している患者の中に遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)が発見されることがあります。
心アミロイドーシスが認められるATTRアミロイドーシス患者34例[遺伝性ATTRアミロイドーシス(FAP)患者:4例]を対象に行われた後ろ向き研究では、心アミロイドーシスが診断されるまでの数ヵ月から数年の間に複数の症状が発現しており、その中で手根管症候群が心外症状として最も多く(14例、41.2%)、その発症時期中央値は診断前1616.5日であったことが報告されています9
また、本症候群は、妊娠・出産期や更年期の女性に多く発症するとされています。よって、男性で手根管症候群を発症している場合は、その原因がアミロイドーシスである可能性を考慮する必要があります。 手根管症候群に対しては、手根管開放術の際などに、手根管部のアミロイド沈着の有無を確認し、遺伝性を含むATTRアミロイドーシスを鑑別することが重要といえます。

引用文献

  1. Planté-Bordeneuve V, Ferreira A, Lalu T, et al. Neurology. 2007;69:693-698.
  2. Koike H, Hashimoto R, Tomita M, et al. Amyloid. 2011;18:53-62.
  3. 鈴木 則宏 シリーズ監修, 神田 隆 編集. 神経内科Clinical Questions & Pearls末梢神経障害. 東京: 中外医学社; 2018:287-296.
  4. 日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイドライン2016. 東京:南江堂; 2016:221-237.
  5. 糖尿病性神経障害を考える会. Peripheral Nerve 末梢神経. 2012;23:109-111.
  6. 日本循環器学会/日本心不全学会. 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2018_tsutsui_kitaoka.pdf(2021年3月閲覧)
  7. 安東 由喜雄 監修. 最新 アミロイドーシスのすべて. 第1版. 東京: 医歯薬出版; 2017:2-8.
  8. 安東 由喜雄 監修. 最新 アミロイドーシスのすべて. 第1版. 東京: 医歯薬出版; 2017:17-23.
  9. Papoutsidakis N, Miller EJ, Rodonski A, et al. J Card Fail. 2018;24:131-133.