監修
北岡 裕章 先生

(高知大学医学部老年病・循環器内科学 教授)

心アミロイドーシスの診断 ATTRvアミロイドーシスの診断基準

アミロイドーシスの診断には、アミロイドの沈着を証明するのみならず、アミロイドの沈着による臓器障害により生じた臨床所見を確認することが重要です。よって診断のためには、まず臓器障害による臨床症状からアミロイドーシスを疑い、それを示唆する検査所見を考慮のうえ、他の疾患の鑑別を行い、最終的な診断を確定する作業が必要です。

アミロイドーシスの確定診断には、組織におけるアミロイド沈着を病理組織学的に証明する必要があります。アミロイドは、病理学的にコンゴーレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈する物質として同定されます。その後、個々の前駆蛋白(κ鎖、λ鎖、TTR、Amyloid Aなど)に対する特異的な抗体を用いて免疫組織染色を行い、病型分類を行います。ATTRvアミロイドーシスでは、遺伝子検査によりTTR遺伝子変異を確認します。

近年、ATTR診断における99mTc ピロリン酸シンチグラフィの有用性を示すエビデンスが集積しており1,2、生検を行わずに低侵襲な画像検査を活用した診断基準も提案されています3

厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業アミロイドーシスに関する調査研究班(難病班)が各学会のコンセンサスのもと、ATTRvアミロイドーシスの診断基準を改訂しました4。この内容を反映させた最新の診断基準は、以下の通りです。

A.
臨床症候および検査所見ATTRvアミロイドーシスによると考えられる臨床症候・検査所見を認める(表11)。
B.
病理検査所見組織生検でコンゴーレッド染色陽性、偏光顕微鏡下にアップルグリーン色の複屈折を呈するアミロイド沈着を認める(注1)。
C.
アミロイドタイピングアミロイド沈着はトランスサイレチン(TTR)陽性である(注2)。
D.
シンチグラフィ99mTc ピロリン酸シンチグラフィで心臓に陽性像が確認される(注3)。
E.
遺伝学的検査TTR遺伝子にアミノ酸の変化を伴う変異を認める。

<診断のカテゴリー>

Definite:
A+B+C+Eを満たす。
Probable:
A+B+Eを満たす。もしくは、A+D+Eを満たす。
発病年齢: 集積地(熊本、長野)の症例は20~40代が多いが、その他の地域(非集積地)では50歳以後の発症が多く、約半数で家族歴が明確でない。 遺伝様式: 常染色体顕性遺伝であるが、問診のみでは家族歴が不明なことがある。 TTR遺伝子変異型により多様な症候(末梢神経型、心臓型、脳髄膜血管型・眼型など)を呈すことに注意が必要である。また、同一家系内でも発症年齢が大きく異なる場合がある。 ATTRvアミロイドーシスの臨床像として、集積地(熊本、長野)における若年発症の家族性アミロイドポリニューロパチーの患者を念頭に置いた場合、MGUSを合併することは少なくM蛋白を意識する必要性は低いものと考えられる。反対にATTRwtアミロイドーシスについては、MGUSとの合併例が非常に多いこと(10~18%)が知られており、ATTRwtアミロイドーシスの39%にフリーライトチェインの異常値を認めるという報告もあることから診断のピットホールとして留意すべきである。そのため、ATTRwtアミロイドーシスの診断にはM蛋白の否定を必要条件としたが、ATTRvアミロイドーシスの診断基準からはM蛋白の項は除外した。

(注1) 腹壁脂肪吸引、消化管生検、皮膚生検、口唇生検、神経生検、心筋生検などで認める。消化管粘膜下層の血管壁にアミロイド沈着を認める場合が多いため、消化管生検は粘膜下層まで採取することが望ましい。複数臓器部位の複数箇所で生検を繰り返し行うことで、アミロイド沈着の検出率を高めることが期待できる。

(注2) 免疫染色によりATTR(+)、ALκ(-)、ALλ(-)、AA(-)を確認すること、もしくは、生検組織の質量分析法(LMD-LC-MS/MS)でアミロイド原因蛋白質を確認する。自施設での実施が困難な場合は、厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究班(http://amyloidosis-research-committee.jp/)」に解析依頼が可能である。

(注3) 3時間後撮影正面プラナー画像を用いた視覚的評価法(Grade 0 心臓への集積なし、Grade 1 肋骨よりも弱い心臓への軽度集積、Grade 2 肋骨と同等の心臓への中等度集積、Grade 3 肋骨よりも強い心臓への高度集積: Grade 2以上を陽性とする)、あるいは1時間後撮影画像の定量的評価法(heart-to-contralateral [H/CL]比: 1.5以上を陽性とする)などにより評価する。(心筋シンチグラフィの詳細は核医学検査のページを参照)

表11 ATTRvを疑う臨床症候
および検査所見

項目 臨床症候 検査所見
末梢神経アミロイドーシスによるもの 小径線維優位の感覚・運動ポリニューロパチー症状(四肢末梢の温痛覚を主体とした低下、四肢末端の筋萎縮・筋力低下) 軸索型の神経伝導検査異常、皮膚生検における表皮内神経線維密度の低下、MR neurography(MRN)における後根神経節や坐骨神経近位部の腫大
自律神経アミロイドーシスによるもの 起立性低血圧、嘔吐、下痢、便秘、排尿障害、陰萎、発汗異常など MIBG心筋シンチグラフィにおける心取り込みの低下、レーザードプラ皮膚血流検査、発汗機能検査、R-R間隔検査(心拍数変動検査)、シェロング試験、胃電図など
腱・靭帯アミロイドーシスによるもの 手根管症候群症状(手のしびれ、疼痛) 神経伝導検査における手根管部の伝導遅延
心アミロイドーシスによるもの 表8を参照
腎アミロイドーシスによるもの 浮腫、体重増加 蛋白尿など
眼アミロイドーシスによるもの ドライアイ、硝子体混濁、緑内障、瞳孔の不整など 眼圧の上昇など
中枢神経アミロイドーシスによるもの 一過性中枢神経症状(TFNE)、意識障害、脳出血など 頭部、脊椎造影MRIにおける髄膜造影、微小出血を含めた脳出血など
その他の臓器アミロイドーシスによるもの 低血糖発作、甲状腺機能低下症状など  

表8 心アミロイドーシスを疑う
臨床所見および検査所見

臨床症候 検査所見
臨床症候 心不全症状(息切れ、浮腫)、眩暈や失神 検査所見

心房細動、刺激伝導系障害(房室ブロック、脚ブロック、心室内伝導障害)、心室性不整脈、肢誘導低電位、胸部誘導QSパターン(V1-3)

心室壁肥厚(右心室も含む)、心房中隔肥厚、著しい心室拡張能障害、心室のエコー輝度亢進(granular sparkling appearance)、心膜液貯留、弁肥厚、左室基部のlongitudinal strain低下(apical sparing)

血中BNP/NT-proBNP高値、血中心筋トロポニンT/I高値*

心臓MRI(CMR)における左室心内膜下のびまん性遅延造影、T1 mappingにおけるnative T1遅延、ECV上昇

* トロポニン検査は、心アミロイドーシスに対して、保険診療として認められていない。

引用文献

  1. Perugini E, Guidalotti PL, Salvi F, et al. J Am Coll Cardiol. 2005;46(6):1076-1084.
  2. Hutt DF, Quigley AM, Page J, et al. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2014;15(11):1289-1298.
  3. Gillmore JD, Maurer MS, Falk RH, et al. Circulation. 2016;133(24):2404-2412.
  4. アミロイドーシスに関する調査研究班(2020年3月作成).
    http://amyloidosis-research-committee.jp/