監修
北岡 裕章 先生

(高知大学医学部老年病・循環器内科学 教授)

心アミロイドーシスの診断 生検、病理・質量分析

生検

生検(腹壁、消化管など)

全身性アミロイドーシスの病理診断では、一般にアミロイド沈着が示唆される症候・検査所見を呈する臓器・組織において高率にアミロイドを検出できますが、心臓、神経、腎など生検の侵襲性が高い臓器の場合は、比較的低侵襲な生検部位(腹壁脂肪、皮膚、消化管、口唇)からの生検で代用しアミロイド沈着の検証を行うことが多いです。生検によりアミロイドが検出された場合、免疫組織化学染色、生検組織の質量分析などによりアミロイド前駆蛋白のタイピングを行うことにより確定診断が得られます。

心筋生検

心アミロイドーシスの確定診断は、剖検心もしくは心筋生検における心筋組織中のアミロイド沈着を検出することによって行われます。病理学的にアミロイドとは、コンゴーレッド染色で赤染され、かつ、偏光顕微鏡にて緑色複屈折を呈する(apple green sign)物質と定義されています。心アミロイドーシスでは、心筋生検によりアミロイド沈着を検出する陽性率は100%に近く、いわゆるサンプリングエラーはほぼないとみなしてよいとされています。

病理・質量分析

心アミロイドーシスの組織病理学的病型診断

心アミロイドーシス患者の治療方針を決めるうえで、アミロイドーシスの病型診断はきわめて重要です。病型診断に関しては、通常コンゴーレッド染色でアミロイドの沈着が証明されれば、各種抗体を用いた免疫染色を行います。わが国でみられる全身性アミロイドーシスの大部分は、AL、AA、ATTR、Aβ2-ミクログロブリンアミロイドーシスであるので、最初のスクリーニングとしては、これらを認識する一次抗体を用いてまず鑑別します1

ATTRアミロイドーシスの場合、組織検査だけではATTRvアミロイドーシスかATTRwtアミロイドーシスかの判定はできないため、同意取得後にTTR遺伝子解析を行う必要があります。

質量解析を用いたアミロイドーシスの病型診断

血清変異トランスサイレチン(TTR)の同定
ATTRvアミロイドーシス患者における変異TTRは、V30M変異のように、一アミノ酸置換によるものがほとんどであり、質量分析法を用いると、ValからMetへのようなアミノ酸置換で生じるTTRの分子量の変化を簡便かつ明瞭に識別できます2。具体的には、健常者やATTRwtアミロイドーシス患者では、血清中に野生型TTRのピークしか認めませんが、変異TTRを有するATTRvアミロイドーシス患者では、野生型TTRのピークに加え、分子量の異なる変異TTRのピークが検出されます。
質量解析を用いたアミロイド蛋白解析
免疫染色などでアミロイドーシスの病型鑑別ができない場合は、沈着アミロイド蛋白の同定が必要になります。近年の質量分析器の精度向上(液化クロマトグラフィー タンデム質量分析器、LC-MS/MS)により、きわめて微量なアミロイド蛋白の解析も可能になっており3,4、心筋生検のような微小生検組織でもアミロイド蛋白の解析は可能です。

心アミロイドーシスにおける組織病理学的病型診断および質量解析の推奨とエビデンスレベルは、以下の通りです。

心アミロイドーシスにおける組織病理学的病型診断および質量解析の推奨とエビデンスレベル

  推奨
クラス
エビデンス
レベル
  Minds
推奨
グレード
Minds
エビデンス
分類
コンゴーレッド染色でアミロイドの沈着が証明されたときに各種抗体を用いて行う免疫染色 I B   A IVb
免疫染色でアミロイドタイピングの鑑別ができないときの質量解析 I B   A IVb

引用文献

  1. 石原得博 監修、池田修一 編集. アミロイドーシスの基礎と臨床. 東京: 金原出版; 2005:34-38.
  2. Tachibana N, Tokuda T, Yoshida K, et al. Amyloid. 1999;6(4):282-288.
  3. Yazaki M, Fushimi T, Tokuda T, et al. Am J Kidney Dis. 2004;43(5):e22.1–e22.6.
  4. Yoshinaga T, Yazaki M, Sekijima Y, et al. J Pathol Clin Res. 2016;2(2):72-79.